矯正のカウンセリングや治療中に「歯を少し削ります」と言われて、不安になった。そういう経緯でこのページに来た方が多いと思います。
健康な歯を削ると聞けば、身構えるのが自然です。
ただ、この処置は歯を小さくするために削るのではありません。目的が違います。そして、この処置で作れるスペースには上限があり、その上限が治療計画の分かれ目を決めています。
IPRは「歯を小さくする」処置ではない
IPRは InterProximal Reduction の略で、隣接歯間の削減を意味します。ディスキングと呼ばれることもあります。
内容は、歯と歯の間を少しずつ削り、矯正治療で歯が移動するスペースを確保する方法です。歯の側面、隣の歯と接している面をわずかに削ります。
削る量は1箇所あたり最大0.5mm程度とされています。歯の表面を覆っているエナメル質の厚みは1〜1.5mmとされているので、その一部にあたる範囲です。ただし厚みには個人差があるため、歯や歯列の状態に合わせて量は調整されます。
ここで区別しておきたいことがあります。歯を削る処置には、目的が逆方向のものがあります。
| 目的 | 内容 |
|---|---|
| 歯そのものを小さくする | 大きく見える歯の形を整える。見た目のための処置 |
| 歯を動かす場所を作る(IPR) | 歯を細くして、並べるための隙間を生む |
前者については前歯を削って小さくする費用は?原因で3,000円から100万円まで変わる理由で扱っています。IPRはそれとは別の目的の処置で、削るのは正面から見える部分ではなく、歯と歯が接している側面です。
作れるスペースには上限がある
ここが、この記事でいちばん重要なところです。
IPRで確保できるスペースは、合計でおよそ3〜6mm程度とされています。1箇所0.5mmを複数箇所で積み上げた合計値です。なお、この上限は説明する資料によって幅があり、同じ提供元でも「最大3〜4mm程度」とする記載と「4〜6mm程度」とする記載があります。実際に確保できる量は歯の状態によって変わるため、幅のある目安として捉えてください。
歯を並べる場所が足りないとき、スペースを作る方法は大きく3つあります。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 歯を細くする(IPR) | 合計およそ3〜6mm程度 |
| 歯列を横に広げる | 顎の骨が許す範囲まで |
| 抜歯する | 歯を抜いて、その分の隙間を使う |
この3つを並べると、量の桁が見えてきます。
抜歯をした場合、閉じることになる隙間は7〜8mmほどです。この隙間を閉じる工程が治療期間の大半を占めることは抜歯矯正で抜くのはどの歯?期間の大半を占める「隙間を閉じる工程」で扱いました。
つまり、IPRで作れる量の全部(およそ3〜6mm)と、抜歯1本で得られる量(7〜8mm)は、同じくらいのオーダーの数値だということです。IPRは小さな処置に見えますが、積み上げれば抜歯1本に近い量になります。同時に、抜歯1本分を超えることはできません。
だから「IPRで済むか、抜歯か」は必要量で決まる
この上限があることで、治療計画の分かれ目が量として見えるようになります。
抜歯が必要かどうかは、引き算で決まります。必要なスペースから、作れるスペースを引いて、不足分があるかどうかです。この考え方は矯正で抜歯が必要と言われる理由|医院によって判断が分かれるのはなぜかで整理しました。
その引き算に、IPRの上限が具体的な数値として入ります。
- 必要量がおよそ3〜6mmの範囲に収まる → IPRで対応できる可能性がある
- 必要量がそれを超える → 歯列を広げるか、抜歯を検討することになる
ここで正直に書いておきたいことがあります。IPRは、抜歯を避けるための方法ではありません。
抜歯を避けたいという気持ちからIPRを希望する方もいますが、順序が逆です。必要量が上限に収まる場合にIPRという方法が成立する、というだけのことです。必要量が大きいのに無理にIPRだけで済ませようとすれば、歯を並べきれなかったり、歯列を骨の範囲を超えて広げることになったりします。
必要量が先で、方法は後です。
リスクをどう理解するか
削ることへの不安について、公開されている説明を整理します。
虫歯について。Oh my teeth の解説では「研磨処置を行うことで虫歯になりやすくなるという報告はされていません」とされています。
知覚過敏について。同じ解説では「知覚過敏が起こるのは、歯の象牙質が露出してしまうため」であり、「象牙質とはエナメル質の内側にある層で、研磨処置ではそこまで歯を削ることはありません」と説明されています。削る範囲がエナメル質の内側に届かないため、という理屈です。
痛みについて。「歯ぐきに器具が当たった際の『チクチク』とした程度のもの」とされています。
ここまでが公開されている説明です。そのうえで、もう一点付け加えておきます。
エナメル質は、削ると再生しません。
これは危険だという話ではありません。適切な範囲であれば問題が生じるという報告はされていない、というのが上記の内容です。ただし「安全である」ということと「元に戻せる」ということは別です。
削った分は戻らないので、必要のない量を削らないことが前提になります。だからこそ、どこを何mm削る計画なのかを把握しておく意味があります。
受ける前に確認しておきたいこと
説明を受けた段階で聞いておくと、見通しが立ちます。
合計で何mm削る計画か。上限がおよそ3〜6mm程度である以上、計画上の合計値は目安として意味を持ちます。
どの歯の間を削るか。全体に均等ではなく、必要な場所に配分されます。
その量で足りる計画になっているか。IPRだけで必要量に届かない場合、他の方法と組み合わせることになります。何をどう組み合わせる計画なのかを聞いておくと、途中で計画が変わったときにも理解しやすくなります。
足りなかった場合にどうするか。計画どおりに動かなかった場合の選択肢を、始める前に確認しておきます。
前歯を後ろに下げる余地があるかどうかという判断については出っ歯はマウスピース矯正で治せる?適応を分けるのは「下げる場所」があるかで扱っています。
通院先を大宮周辺で検討する場合は、通いやすさも判断材料になります。IPRは治療の進行に合わせて複数回に分けて行われることがあるため、通院のしやすさが関わってきます。なお通院の頻度は医院の方式によって差があり、来院を最低1回※からとしている方式もあります。
※通院回数は治療内容・個人の状態により異なります
よくある質問
IPRをすれば抜歯を避けられますか?
必要なスペースの量によります。IPRで作れるのは合計およそ3〜6mm程度なので、必要量がその範囲に収まれば抜歯せずに済む可能性があります。一方、必要量が大きい場合は、IPRだけでは届きません。
IPRは抜歯を避けるための手段ではなく、必要量が上限に収まる場合に成立する方法です。避けたいという希望から方法を決めると、無理な計画になることがあります。
削った歯は元に戻りますか?
戻りません。エナメル質は再生しない組織です。ただし、削る範囲はエナメル質の厚みの一部にとどまり、内側の象牙質までは達しないとされています。必要のない量を削らないことが前提になるため、計画上の量を確認しておくと安心です。
何回に分けて行いますか?
治療の進行に合わせて、複数回に分けて行われることがあります。歯が動くにつれて必要な場所が変わるためです。最初に全部まとめて削る形とは限らないので、計画を確認してみてください。
削ったところに物が挟まりやすくなりませんか?
削ったあとは、歯を動かして隙間を閉じていくのが前提です。隙間がそのまま残る形ではありません。ただし治療の途中では一時的に隙間ができるため、その期間の清掃方法については担当の医院に確認してください。
まとめ
IPR(ディスキング)は、歯と歯の間をわずかに削って歯が移動するスペースを確保する処置です。歯を小さくするための処置とは目的が違い、削るのは歯と歯が接している側面です。
削る量は1箇所あたり最大0.5mm程度、エナメル質の厚みは1〜1.5mmとされています。そして合計で作れるスペースはおよそ3〜6mm程度が目安です。
この上限が重要です。抜歯1本で得られる隙間が7〜8mmほどであることと並べると、IPRの全体量と抜歯1本分が同じくらいのオーダーだと分かります。だから抜歯が必要かどうかは、必要なスペースの量がおよそ3〜6mmに収まるかどうかで実質的に分かれます。
IPRは抜歯を避けるための方法ではありません。 必要量が先にあり、それに対して方法が決まります。
リスクについては、虫歯になりやすくなるという報告はされておらず、知覚過敏の原因となる象牙質までは削らないとされています。ただしエナメル質は再生しないため、「安全である」ことと「元に戻せる」ことは別に考える必要があります。
説明を受けたら、合計で何mm、どの歯の間を削る計画なのかを聞いてみてください。検査とカウンセリングを無料で受けられる医院であれば、費用をかけずに自分の必要量から確認できます。