気になっているのは下の前歯のガタつきだけ。上の歯並びは自分では問題ないと思っている。それなら、下だけを動かせば費用は抑えられるはずだ。
自然な発想です。動かす歯が少なければ費用が下がるのは、実際にそのとおりです。
ただし、ここには前提がひとつ隠れています。範囲を自分で選べるという前提です。
実際には、どこまで動かすかは診断で決まります。そして「下だけ」を希望した人がどうなったかについては、公開されているデータがあります。
下だけで治療が終わった人は5%だった
マウスピース矯正を提供する Oh my teeth が公開している利用者データによると、「下の前歯だけ」で治療が完了した人は5%でした。
同じデータで、下の前歯3本以上を動かした人の費用は次のように分布しています。
| 費用帯 | 割合 |
|---|---|
| 40〜60万円 | 39.1%(最多) |
| 10〜20万円 | 21.7% |
| 20〜40万円 | 17.4% |
期間は、2023年10月〜2024年9月に治療を終えた利用者で平均123日(約4ヶ月)。程度が軽ければ2ヶ月ほどで終わるケースもあります。
※マウスピース矯正は自由診療(保険適用外)です。透明な装置を段階的に交換しながら歯を動かす治療で、費用と治療期間は症例により異なります(上記は治療を受けた人の分布であり、個々の見積もりを示すものではありません)。リスク・副作用として、装着中の痛みや違和感、発音のしにくさ、装着時間が不足した場合の治療期間の延長や計画どおりに歯が動かないこと、治療後の後戻りなどが生じることがあります。また症例によっては適応外と判断される場合があります。
注目したいのは2つです。ひとつは、下だけで終わった人が5%にとどまること。もうひとつは、費用の最多帯が40〜60万円で、片顎に絞った金額として想像するよりも高い位置にあることです。
つまり「下だけ」は、多くの場合入口の希望であって、診断を経た結果としては少数派だということになります。
なぜ下だけで終わらないのか
理由はひとつに集約できます。
歯並びは片顎だけで見えますが、噛み合わせは上下の関係でしか成立しないからです。
鏡で下の前歯を見るとき、私たちは下顎だけを見ています。そこにガタつきがあれば、下顎の問題として認識します。けれど噛んだときにどう当たるかは、上の歯があって初めて決まります。
先ほどのOh my teethの解説でも、「下の歯を動かすと、噛み合わせはほぼ確実に変化します」と説明されています。
下の前歯を並べるという作業は、歯を前後・左右に動かすことです。並べた結果、下の前歯の位置は動く前とは変わります。すると上の前歯との重なり方も変わります。
縦にどれだけ重なっているか、横にどれだけ出ているか。この2つの指標の意味については噛み合わせが深いとマウスピース矯正は難しい?縦方向の動きと期間の関係で整理しています。
変化が許容範囲に収まるなら、下だけで完結します。収まらないなら、上も含めて計画を立て直すことになります。下だけを希望したかどうかとは無関係に、噛み合わせの側から範囲が決まるわけです。
部分矯正のプランが「上下前歯12本」のように上下をひとまとまりとして設計されていることが多いのも、同じ理由によります。片顎という区切りは、見た目の区切りではあっても、噛み合わせの区切りにはなっていません。上下の前歯に範囲を絞る形についてはマウスピース矯正は前歯だけできる?費用・期間と適応の条件を解説で扱っています。
下の前歯に固有の3つの事情
下の前歯には、上の前歯とは違う条件がいくつかあります。
① 歯が小さいぶん、作れるスペースも小さい
歯が並びきらずに重なっている状態は、並べるための場所が足りていないということです。この場合、歯と歯の間をわずかに削って隙間を作る処置(IPR)で対応することがあります。
ただし削れる量には限度があり、下の前歯はもともと歯そのものが小さいため、確保できる隙間も小さくなります。
前述のOh my teethの解説では、並べるスペースの不足が3mm以上ある場合は対応が難しい例として挙げられています。あわせて、骨格に原因がある場合、重度のガタつき、抜歯が必要な症例も挙げられています。
下の前歯は、この線に当たりやすい部位だといえます。
② 後戻りが起きやすい部位
下の前歯は、治療後に元へ戻ろうとする動きが出やすい場所として知られています。
ここが費用の話と直結します。範囲を絞って費用を抑えても、保定を省けば動いた歯は戻ります。戻ってから再治療になれば、抑えたはずの費用は結局増えます。
保定が要る理由と装置の選び方はリテーナーはなぜ必要?後戻りを起こす2つの力と種類の選び方で説明しています。
③ 自分からは見えるが、他人からは見えにくい
下の前歯は、鏡で口を開けたときには自分でよく見えます。一方で、会話や笑ったときに他人から見えるのは、主に上の前歯です。
ここは目的の確認になります。気になっている理由が「他人からどう見えるか」なのであれば、下の前歯を動かすことがその目的に届かない可能性があります。逆に、自分で見たときの違和感や、舌が当たる感覚が動機なら、下の前歯を整えることは目的に合っています。
どちらなのかを先に決めておくと、見積もりの読み方が変わります。この考え方は歯列矯正の「安い」は3種類ある|表示価格・総額・目的に対しての違いでも扱っています。
それでも下だけで完結する条件
5%という数字は少数ですが、ゼロではありません。下だけで終わる人は実際にいます。条件を整理します。
上の歯並びと噛み合わせに問題がない。下を動かした結果として変わる上下の関係が、許容範囲に収まる状態であることです。
動かす量が小さい。並べるためのスペース不足がわずかで、隙間を作る処置の範囲で収まることです。
骨格に原因がない。顎の大きさや位置そのものが原因の場合、歯を並べる処置では対応する範囲を超えます。
抜歯を要しない。抜歯が必要と判断される状態であれば、下の前歯だけを対象にした計画には収まりません。
これらは検査を受けて判断されるもので、自己判断はできません。適応から外れると言われた場合の考え方は部分矯正ができない例とは?断られる理由と言われたあとの選択肢で取り上げています。
「安い」が成立するのはどこか
ここまでを踏まえて、費用の話に戻します。
動かす歯が少なければ費用が下がる。これは事実です。範囲を絞ることは、費用を抑える方法として合理的です。
問題は、その範囲を決めるのが希望ではなく診断だという点にあります。下だけを希望しても、噛み合わせの側から上下が必要と判断されることがあります。そのとき「下だけ」の金額は最初から選択肢に入っていません。
そこで現実的なのは、次の進め方です。
下だけの計画が成立するかを診断で確認する。成立するかどうかが分からないまま金額だけを比べても、比較になりません。
下だけと上下の両方で見積もりをもらう。両方が成立する場合、差額と得られる結果を並べて考えられます。片方しか成立しないなら、その時点で迷う必要がなくなります。
保定までを含めた総額で見る。下の前歯は戻りやすい部位です。保定装置の費用が含まれるかどうかで、総額は変わります。含まれる範囲の見方はマウスピース矯正の値段はいくら?相場と内訳、総額の見方を解説で整理しています。
なお、下だけを対象とした治療を扱っていない医院もあります。噛み合わせへの影響を考えて、上下を単位として計画する方針を取っている場合です。これは方針の違いであり、良し悪しの問題ではありません。
通院先を大宮周辺で検討する場合は、通いやすさも判断材料になります。通院のたびにかかる時間と交通費も、実質的には費用の一部です。なお通院の頻度は医院の方式によって差があり、来院を最低1回※からとしている方式もあります。
※通院回数は治療内容・個人の状態により異なります
よくある質問
下だけ安くやってくれる医院を探せばいいのでは?
金額だけで探すと、下だけの計画が自分の状態で成立するかという確認が抜けます。成立しない場合、始めても計画どおりに進まず、途中で方針変更になることがあります。順番としては、診断で範囲を確定してから金額を比べるほうが結果的に無駄がありません。
下の歯だけなら期間も短いですか?
動かす歯が少なければ期間も短くなる傾向があります。先ほどのデータでは下の前歯3本以上を動かした人の平均が約4ヶ月、程度が軽ければ2ヶ月ほどというケースもあります。ただしこれは治療を終えた人の実績であり、自分の期間は移動量によって決まります。
下だけ矯正して、あとから上もやることはできますか?
段階的に進めること自体は可能です。ただし下を動かした時点で上下の関係が変わるため、後から上を動かす際は、その変化した状態を前提に計画し直すことになります。最初から上下で組んだ場合と比べて、合計の費用と期間が増える可能性があります。先に上も含めた検査を受けたうえで、段階的に進めるかを決めるのが現実的です。
下の前歯1本だけのねじれでも治せますか?
対象が1本でも、その歯を動かすための場所が要る点は変わりません。隣の歯との関係で隙間を作れるかどうかが判断の分かれ目になります。範囲が小さいほど費用と期間は抑えられますが、成立するかは検査によります。
まとめ
下の歯だけの矯正は、動かす歯が少ないぶん費用を抑えられる可能性があります。ただし公開されているデータでは、下の前歯だけで治療が完了した人は5%でした。費用の最多帯も40〜60万円で、片顎に絞った金額として想像するより高い位置にあります。
理由は、歯並びは片顎で見えても、噛み合わせは上下の関係でしか成立しないことにあります。下の前歯を並べれば上との重なり方が変わるため、範囲は希望ではなく噛み合わせの側から決まります。
下の前歯には固有の事情もあります。歯が小さいぶん作れるスペースが小さいこと、後戻りが起きやすい部位であること、そして他人からは見えにくい位置であることです。3つ目は、何のために治すのかという目的の確認につながります。
それでも下だけで完結する人はいます。上の噛み合わせに問題がなく、動かす量が小さく、骨格に原因がなく、抜歯を要しない場合です。
進め方としては、先に診断で範囲が成立するかを確認し、そのうえで下だけと上下の両方の見積もりを比べること。検査とカウンセリングを無料で受けられる医院であれば、費用をかけずにこの確認を進められます。