カウンセリングで「抜歯が必要になります」と言われたとき、すぐには受け入れられないのが自然だと思います。虫歯でもない健康な歯を抜く。それも1本ではなく複数本。
抵抗を感じるのは当然です。ただ、判断する前に治療の中身を知っておくと、見え方が変わる部分があります。
たとえば、抜歯は治療の出発点であって、終わりではありません。抜いた瞬間に口元が引っ込むわけではなく、そこから年単位で歯を動かしていくことになります。この時間の感覚を持っておくと、説明を受けたときの理解が変わります。
ここでは、どの歯を抜くのか、その後どう進むのか、そして元に戻せないという性質について整理します。
抜くのは主に「第一小臼歯」
抜歯矯正で対象になることが多いのは、第一小臼歯です。前歯から数えて4番目、犬歯のすぐ奥にある歯です。
なぜこの歯なのか。理由は位置にあります。
第一小臼歯は歯列のちょうど中間あたりにあります。ここを抜くと、できた空間を前歯側にも奥歯側にも配分できます。前歯を後ろに下げたい症例でも、奥歯を前に動かしたい症例でも使える、という融通が利く位置です。
もうひとつの理由として、前歯の見た目や奥歯で噛む機能への影響を、比較的抑えられるとされている点があります。前歯を抜けば見た目に直接響きますし、奥歯を抜けば噛む力に関わります。その中間にある歯は、役割の面で調整の余地があるということです。
症例によっては、第二小臼歯(5番)が選ばれることもあります。どの歯を抜くかは、必要な空間の量と、どこに配分したいかによって決まります。
犬歯は抜かない
隣にある犬歯は、抜歯の対象になりません。
犬歯は歯根が長く、顎を横に動かしたときに他の歯を守る役割を担うとされています。この働きは他の歯で代替しにくいため、温存を前提に計画が立てられます。詳しくは八重歯の矯正で抜くのは八重歯ではない|犬歯の役割とスペース不足という原因で取り上げています。
「4本」という数字が出てくる理由
抜歯矯正の説明で「4本」という数字を目にすることがあります。これは、左右対称に抜くのが基本だからです。
片側だけ抜くと、歯列の中心が抜いた側にずれてしまう可能性があります。上下の歯の中心を合わせることは噛み合わせの土台になるため、左右で同じ位置の歯を抜くのが原則になります。
上の歯列だけが対象なら2本、上下とも対象なら4本、という計算です。上下どちらを対象にするかは、噛み合わせの状態によって決まります。
なお、もともと歯が足りない場合や、片側だけずれている場合など、症例によっては対称にしない計画もあります。一律の決まりではなく、噛み合わせの設計として判断されるものです。
期間の大半は「隙間を閉じる工程」
ここが、知っておくと理解が変わる部分です。
小臼歯を1本抜くと、7〜8mm程度の空間ができます。これは矯正で扱う移動量としてはかなり大きな数字です。歯の側面をわずかに削って作れる量が前歯の範囲で2mm台にとどまることを考えると、桁が違うといえます。この対比は出っ歯は部分矯正で治せる?「並べる」と「下げる」は別の治療で整理しています。
そして、この空間は放っておいても埋まりません。装置で歯を少しずつ移動させて、時間をかけて閉じていくことになります。
進め方には段階があります。たとえば、まず犬歯を空いた場所へ後方に引き、そこにできた余裕を使って前歯を並べていく、という順序で進める例があります。一度にすべてを動かすのではなく、順番に移動させていく形です。
この工程があるため、抜歯を含む矯正では治療期間が2〜3年以上になる場合があります。抜歯そのものは1回で終わりますが、その後の移動に時間がかかるということです。
「抜けばすぐ変わる」という期待を持っていると、実際の進み方とずれます。抜歯は空間を作る処置であって、歯を動かすのはそのあとだと捉えておいてください。
抜歯は元に戻せない
もうひとつ、正直にお伝えしておきたい点があります。
抜いた歯は戻りません。 大人の歯は生え変わらないため、抜歯は取り消しのきかない選択になります。
このことから、いくつかの考え方が導かれます。
迷っている段階では抜かないという判断が成り立ちます。矯正を始めてからでも、抜歯のタイミングは計画の中で調整できることがあります。納得しないまま進める必要はありません。
別の医院で意見を聞いてもかまいません。抜くか抜かないかは、同じ歯並びでも医院によって方針が分かれることがある領域です。判断の根拠を複数聞くことで、自分の状態が見えてきます。
理由を具体的に聞いておく。なぜその本数なのか、抜かない場合はどこまで変わってどこが変わらないのか。説明が具体的であれば、判断材料になります。抜歯の要否がどのように判断されるかは口ゴボは矯正で治る?原因のタイプ別に治療法と抜歯の要否を解説で取り上げています。
急がされていると感じたら、いったん持ち帰るという選択も取れます。
隙間が閉じきらないことがある
仕上がりの想定として、知っておきたい点があります。
抜歯でできた空間は、計画どおりに閉じるとは限りません。移動量が大きい場合や、歯の動き方が想定と異なった場合には、わずかに隙間が残ることがあります。
また、空間をどちら側から埋めるかによって、結果が変わります。前歯を後ろに下げて埋めるのか、奥歯を前に出して埋めるのか、その配分によって口元の印象が変わってきます。
そのため、計画の段階で「どちらをどのくらい動かす想定か」を確認しておくと、仕上がりのイメージが具体的になります。
痛み・腫れ・その他の負担
抜歯そのものについても触れておきます。
抜歯後は、痛みや腫れが出ることがあります。程度には個人差があり、歯の状態や本数によっても変わります。処方された薬の使い方や、当日以降の過ごし方については、医院の指示に従ってください。
なお、抜歯による痛みと、矯正の力がかかることによる痛みは別のものです。矯正では装置を調整した後に数日程度、締めつけられるような感覚が出ることがあります。
これらは軽く見るべきものではありませんが、過度に恐れる必要もありません。どの程度の負担が想定されるかを、事前に聞いておくことが現実的な対処になります。
費用と、確認しておきたいこと
費用の扱いは医院によって違います。
抜歯の費用が矯正の費用に含まれるか。別途になっている場合、1本あたりいくらか。
どこで抜くのか。矯正を行う医院で抜く場合と、別の歯科医院や口腔外科を紹介される場合があります。後者では費用が別会計になります。
保定装置まで含めた総額。治療は歯を動かす工程で終わりではありません。動かした位置に定着させる工程が続きます。この考え方はリテーナーはなぜ必要?後戻りを起こす2つの力と種類の選び方で説明しています。
総額の見方はマウスピース矯正の値段はいくら?相場と内訳、総額の見方を解説で整理しています。
通院先を大宮周辺で検討する場合は、通いやすさも判断材料になります。抜歯を含む治療は年単位に及ぶことがあるためです。なお通院の頻度は医院の方式によって差があり、来院を最低1回※からとしている方式もあります。
※通院回数は治療内容・個人の状態により異なります
よくある質問
抜歯しないで治せませんか?
必要な空間の量によります。不足がわずかであれば、歯の側面をわずかに削る方法や、奥歯を後方に動かす方法で対応できることがあります。ただし大きく動かす計画では、それらで作れる量では届かないことがあります。判断は精密検査の結果によります。
抜いた後、隙間が目立ちませんか?
抜歯の直後は空間が見えます。ただし対象になるのは前歯から4番目や5番目の歯で、笑ったときに正面から見える位置とは少し離れています。また装置を付けて歯を動かし始めると、時間とともに空間は狭まっていきます。気になる期間や程度については、事前に確認しておくと想定とのずれを防げます。
抜歯は矯正を始める前ですか、後ですか?
計画によって変わります。装置を付ける前に抜く場合もあれば、ある程度歯を動かしてから抜く場合もあります。どのタイミングになるかは治療計画の中で決まるため、説明を受けておいてください。
親知らずも抜くのですか?
親知らずの扱いは、小臼歯の抜歯とは別の判断になります。生え方や向き、他の歯への影響によって、抜く場合と残す場合があります。矯正の計画とあわせて相談してください。
まとめ
抜歯矯正で対象になることが多いのは、前歯から4番目の第一小臼歯です。歯列の中間にあるため、できた空間を前歯側にも奥歯側にも配分できるという理由があります。犬歯は役割があるため温存が前提になります。
左右対称に抜くのが基本のため、上下が対象になると「4本」という数字が出てきます。ただし症例によって対称にしない計画もあります。
そして重要なのが、抜歯は出発点だという点です。小臼歯1本で7〜8mm程度の空間ができますが、これを閉じるには歯を少しずつ移動させる必要があり、治療期間が2〜3年以上になる場合があります。抜いた瞬間に口元が変わるわけではありません。
抜いた歯は戻せません。だからこそ、迷っている段階では抜かない、別の医院でも意見を聞く、理由を具体的に確認するといった進め方が成り立ちます。
抜くか抜かないかは、必要な空間の量を測って初めて判断できます。検査とカウンセリングを無料で受けられる医院であれば、費用をかけずに確かめるところから始められます。