気になっているのは前歯だけ。それなら全体を動かさなくても、前歯だけの矯正で足りるのではないか。費用も期間も抑えられそうですし、自然な発想だと思います。
ところが相談に行くと、全体矯正をすすめられることがあります。奥歯は問題ないのに、なぜ全部動かす必要があるのか。納得しきれないまま持ち帰った、という方もいるはずです。
ここには、出っ歯に固有の事情があります。前歯を「並べる」ことと「下げる」ことは、別の治療だからです。そして出っ歯で望まれているのは、ほとんどの場合「下げる」ほうです。
ここでは部分矯正の仕組みから説明し、なぜこの組み合わせが難しくなりやすいのかを、必要なスペースの量で示します。
部分矯正は「奥歯を動かさない」治療
部分矯正は、前歯を中心とした限られた範囲だけを動かす治療です。上下それぞれ前歯6本程度を対象とすることが多く、奥歯は原則としてそのままにします。
動かす歯が少ないため、期間が短く、費用も抑えられます。装置を付ける範囲が狭いので負担も軽くなります。ここが選ばれる理由です。
ただし、この「奥歯を動かさない」という前提が、出っ歯では効いてきます。歯列の後ろ側が固定されているということだからです。
「並べる」ことと「下げる」ことは別
歯を動かす目的は、大きく2つに分けられます。
並べる。歯の重なりや凸凹をそろえる動きです。歯列という限られた枠の中で、位置を入れ替えたり回転させたりします。全体の前後の位置は大きく変わりません。
下げる。前歯全体を後方へ移動させる動きです。口元の突出を減らしたい場合はこちらになります。
この2つで決定的に違うのが、必要な空間です。並べるだけなら、歯列の中でやりくりできることがあります。しかし下げるには、下げた先に空間がなければ動けません。前に人が詰まっている列で、先頭だけ後ろに下がろうとしても場所がないのと同じです。
そして出っ歯の主訴は、たいてい「下げたい」ほうです。横から見たときの突出を減らしたい、唇を閉じやすくしたい。並べることではなく、位置そのものを変えることが望まれています。
ここが、期待と提案がすれ違う原因です。
スペースの量を比べると分かる
では、空間はどうやって作るのか。方法ごとに得られる量を並べると、事情がはっきりします。
| 方法 | 得られるスペースの目安 |
|---|---|
| 歯の側面をわずかに削る(IPR)/1か所あたり | 約0.5mm(片側0.25mm程度) |
| 同じ方法を前歯の範囲だけで行った場合 | 2mm台にとどまることが多い |
| 同じ方法を歯列全体で行った場合 | 最大で6.5mm程度 |
| 小臼歯を1本抜歯した場合 | 7〜8mm程度 |
見ていただきたいのは、前歯の範囲だけで作れる量と、抜歯で作れる量の差です。桁がひとつ違うといってよいほど開きがあります。
部分矯正は奥歯を動かさないため、使えるのは実質的に前歯の範囲だけです。そこで確保できるのが2mm台だとすると、大きく下げる計画には足りません。
なお、これらはあくまで目安です。削れる量は歯のエナメル質の厚みによって決まり、部位や個人差もあります。どこまで行うかは医院の判断によります。スペースの作り方それぞれの考え方は口ゴボは矯正で治る?原因のタイプ別に治療法と抜歯の要否を解説で整理しています。
それでも部分矯正が成り立つ場合
とはいえ、出っ歯なら部分矯正は無理、という単純な話ではありません。次のような条件では成り立つことがあります。
必要な後退量が小さい場合。前歯の傾きがわずかで、少し角度を整えるだけで印象が変わるなら、大きな空間は要りません。
もともと歯列に隙間がある場合。すでに空間があるなら、それを利用できます。
噛み合わせに問題がない場合。奥歯の噛み合わせが安定していて、前歯を動かしても影響が出にくいと判断されるケースです。
主訴が見た目の一部に限られる場合。前歯の向きが気になるのであって、口元全体の位置を変えたいわけではない、という場合です。
つまり、自分がどちらに当たるかは、必要な後退量で決まります。出ている程度の見た目ではなく、動かす距離の話です。この判断の考え方は出っ歯はマウスピース矯正で治せる?適応を分けるのは「下げる場所」があるかで詳しく取り上げています。範囲を絞った治療の費用や期間はマウスピース矯正は前歯だけできる?費用・期間と適応の条件を解説で説明しています。
見た目だけを整えたときに起こること
範囲を絞る場合に、もうひとつ確認しておきたい点があります。
歯は上下で噛み合っています。前歯だけを動かすと、上下が接する位置が変わることがあります。奥歯をそのままにしているため、前歯の位置だけが変化するからです。
たとえば前歯を内側に倒しすぎると、上の前歯が下の前歯を覆う量が増えて、噛み合わせが深くなることがあります。前歯どうしが当たる強さが変わることもあります。
見た目の変化と、噛み合わせの変化は別々に起こります。前者だけを見て計画を立てると、後者が想定外の形で出てくるわけです。
だからこそ、部分矯正を検討する場合も、噛み合わせ全体を確認したうえで範囲を決める必要があります。範囲が狭いことと、確認が浅くてよいことは別の話です。
安く見えて、総額が増えることがある
費用の面でも注意点があります。
部分矯正の表示価格は、全体矯正より低く設定されているのが一般的です。ただし比べるべきなのは、最終的に望む状態に届いたときの総額です。
範囲を絞って始めたものの、必要な後退量に届かず、結局あらためて全体矯正をやり直す。この経路をたどると、部分矯正の費用と全体矯正の費用の両方がかかることになります。期間も足し算になります。
最初から全体で組んでいれば1回で済んだ、というケースです。
もちろん、部分矯正で目的を達成できるなら、安く早く終わります。問題は自分がどちらなのかを始める前に見極めることであって、部分矯正そのものではありません。総額の考え方はマウスピース矯正の値段はいくら?相場と内訳、総額の見方を解説で整理しています。
全体矯正をすすめられたときの受け止め方
前歯だけと思って行ったのに全体を提案されると、必要以上に売られていると感じることがあります。その疑いを持つこと自体は自然です。
ただ、その場で判断する前に、理由を聞いてみてください。
- なぜ奥歯を動かす必要があるのか
- 前歯だけでは、どこが足りないのか
- 部分矯正で進めた場合、どこまで変わってどこが変わらないのか
説明が具体的であれば、提案の背景が見えてきます。逆に、理由が抽象的なままなら、そのことも判断材料になります。
納得できなければ、別の医院でも聞いてみて構いません。同じ歯並びでも方針が分かれることはあり、その違い自体が理解を深めます。断られた場合や意見が分かれた場合の考え方は部分矯正ができない例とは?断られる理由と言われたあとの選択肢で整理しています。
相談時に確認したいこと
カウンセリングでは、次の点を聞いておくと判断しやすくなります。
前歯を何ミリ下げる必要があるのか。数値で示してもらえると、部分矯正の範囲で足りるかが見えてきます。
その空間をどう作る計画か。歯の側面を削るのか、抜歯を含むのか、奥歯を動かすのか。
部分矯正で進めた場合に届く範囲。どこまで変わり、どこが変わらないままなのか。
届かない場合の代替案。全体矯正なのか、装置を変えるのか。
精密検査やカウンセリングを無料としている医院であれば、費用をかけずにここまで確認できます。始める前に見極めるという使い方ができます。
通院先を大宮周辺で検討する場合は、通いやすさも判断材料になります。なお通院の頻度は医院の方式によって差があり、来院を最低1回※からとしている方式もあります。
※通院回数は治療内容・個人の状態により異なります
よくある質問
前歯だけ動かせば出っ歯は目立たなくなりますか?
前歯の傾きが軽度で、必要な後退量が小さければ変化が見込めます。ただし大きく下げる必要がある場合、前歯の範囲で作れる空間では足りないことがあります。どちらに当たるかは、必要な移動量を測って判断されます。
歯を削るだけで足りることはありますか?
必要な後退量が小さい場合はあり得ます。ただし削れる量はエナメル質の厚みによって決まるため、無制限に空間を作れるわけではありません。前歯の範囲だけでは2mm台にとどまることが多く、それを超える計画では別の方法が検討されます。
部分矯正のほうが期間は短いですか?
動かす歯が少ないぶん、短く済むのが一般的です。ただし範囲が足りずにやり直すことになれば、結果として長くなります。期間の比較も、望む状態に届くところまでを含めて考えてください。
途中から全体矯正に切り替えられますか?
計画の見直しとして行われることがあります。ただし追加の費用や期間が発生する可能性があるため、その場合の扱いを契約前に確認しておくと安心です。
まとめ
部分矯正は前歯を中心に動かし、奥歯は動かさない治療です。この前提が、出っ歯では効いてきます。
前歯を「並べる」ことと「下げる」ことは別の治療で、下げるには下げた先の空間が要ります。奥歯を動かさない範囲で作れる空間は限られ、前歯の範囲では2mm台にとどまることが多くなります。一方、小臼歯を1本抜けば7〜8mm程度の空間ができます。この差が、部分矯正で届く場合と届かない場合を分けます。
ただし、必要な後退量が小さい場合や、もともと隙間がある場合には成り立ちます。出っ歯だから部分矯正は無理、という単純な話ではありません。
注意したいのは、範囲を絞ったことで噛み合わせが変わる可能性と、届かずにやり直して総額が増える経路です。全体矯正をすすめられた場合は、その場で判断せず、なぜ奥歯を動かす必要があるのかを聞いてみてください。
自分がどちらに当たるかは、必要な移動量を測って初めて分かります。検査とカウンセリングを無料で受けられる医院であれば、費用をかけずに確かめるところから始められます。